修羅の門は大人気漫画家川原正敏が月間少年マガジンにおいて、1987~1996年まで連載し、休止を経て2010年に第弐門を連載再開し、2015年まで連載されていた格闘技漫画である。
休載をはさみ28年間という長期間続いた漫画は今尚大人気で、数々のスピンオフ作品も生まれ愛され続けている漫画だ。
また、格闘漫画のパイオニア的な存在でもあり、この漫画の成功を受けて様々な格闘漫画が生まれた。
この記事では1987~1996年まで連載された第一門についてネタバレ&感想&考察をしていく。
第一部(第一話~第十話)
世界有数の空手道場神武館に陸奥九十九という青年が現れる。彼は千年続く不敗の武術『陸奥圓明流』の後継者であり、彼の祖父陸奥真玄に『神武館をぶっ倒してこい』と言われたと神武館総帥の龍造寺徹心に告げる。
龍造寺徹心は青年時代に陸奥真玄に敗れた過去があり、自分を倒した陸奥圓明流を前にして老齢ながら格闘家の血が騒ぎ道場に居候させることにする。
龍造寺徹心の孫である龍造寺舞子は九十九の人柄に心を寄せていく。
彼のことを快く思わない神武館の指導員木村や、神武館のトップ4人四鬼竜は九十九に挑むも敗れていく。しかし、九十九との戦いで彼らは九十九の強さと人柄に魅せられ、九十九と友情が芽生える。
四鬼竜最強の男、海堂晃は陸奥圓明流の数々の神技を打ち破る為修行をし、九十九と決闘をするのだが、陸奥圓明流の奥義無空波の前に敗れるのだった。
感想
記念すべき第一部。倒した男達が九十九に魅せられていく王道の展開は単純に燃えるし、またそれだけなく、重傷を負おうが絶対に戦いを止めず、また凄惨な技を繰り出す九十九の精神的な強さが初期から描かれているのが印象的。
また、陸奥圓明流の奥義のド派手さもさることながら、宿命のライバルとなる海堂の必殺技双竜脚もカッコよかった!!!
第一部最後の海堂との死闘は全話通しても必見の名勝負だった!!!
第二部(第十一話~第三十九話)
神武館と並ぶ空手界の巨頭鬼道館の天才片山右京を表舞台に引きずり出す為に、九十九は日本の有力格闘技道場で道場破りを決行する。
そんな九十九の強さを聞きつけた日本中の猛者たちは九十九との対戦を熱望し、その意を汲んだ龍造寺徹心は全日本異種格闘技選手権を開催する。
集う最強の男達、シュートボクシングの羽山悟、キックボクシングの竹海直人、プロレスラーの飛田高明、更には龍造寺徹心自らも参戦する事態となる。
九十九は強敵たちを倒していき、準決勝では片山右京を撃破。決勝では陸奥圓明流の分家不破圓明流の継承者不破北斗と対戦。
両者共に不敗を誇る流派のトップ同士の対戦であったが、不破の奥義神威が炸裂し、敗北かと思われた九十九は、陸奥圓明流の最終奥義四門・朱雀を使用し北斗を殺害する。
感想
第二部で九十九の過去が分かり、かつて自分の兄冬弥を試合の末に殺めてしまっていたことなどが判明。不破北斗戦後も自分の手は血に汚れているなど、自らが戦いに憑りつかれた修羅であるという悲壮感すら漂うラストは、この作品のテーマがスポーツてきな格闘技ではなく、命の奪い合いとしての格闘技を描いていることを端的に表しているのではなかろうか。
また、羽山悟は佐山聡のオマージュだし、飛田高明は髙田延彦と前田日明のオマージュであることを考えると、連載当時のUWFの熱狂ぶりも伺えるのは面白い。
作品が進むにつれ、不破の株が上がり、不破北斗は実質作品を通して一番の強敵だったのではないかとすら言われている。
※UWFについてはこちら
第三部(第四十話~第七十四話)
日本で最強になった九十九は遠くアメリカの地で今度はボクシングヘビー級に殴り込みに行く。目当てはヘビー級の強敵アリオス・キルレイン。
九十九はアメリカでボクサーとしてデビューし、瞬く間に勝利の山を築いていき、アリオス・キルレインと戦う為、ヘヴィ級王座統一トーナメントに参加。
ヘビー級の猛者たちを打ち倒し、アリオス・キルレインとの決勝戦に挑む。
感想
キングオブスポーツであるボクシングに殴り込みに行くという熱い展開。
足技が使えないという縛りの中でも陸奥圓明流は強かった。第三部のライバルであるアリオス・キルレインが冷酷無比な殺人マシ―ンとして描かれており、そんな彼が九十九との戦いで自分に目覚めていく姿は胸に込み上げてくるものがあった。
おいおいと突っ込みたくなるのは、アリオス・キルレインとの死闘を前に、九十九は舞子の父親であり、神武館ニューヨーク支部の龍造寺巌と手合わせをするのだが、その際に熱くなりすぎて巌は九十九に重傷を負わせるし、九十九は巌を病院送りにするところだ。
決戦前だろ!!!なにしてんねん!!!と初見の時ははらはらしながら読んだものである。
第四部(第七十五話~第百五話)
ボクシング王者を即返上して九十九はブラジルへ向かう。
祖父陸奥真玄が渡米する際に『コンデコマの業を継ぐ者に会え』と言っていたからだ。
コンデコマは実在した武術家であり、柔道の創始者嘉納治五郎の弟子でもある。彼は世界中を武者修行した後にブラジルに移り住み現地の人々に柔術を教える(実話)。
※現実世界では現地の人々に教えた柔術がブラジリアン柔術となる
※コンデコマについてはこちら
コンデコマの業を継ぐものと言われているグラシエーロ柔術の長老ビクトルは誰がコンデコマの業を継ぐものかは告げず、ただ九十九にグラシエーロ主催のヴァーリ・トゥード(なんでもあり)の試合に出ろという。
大会で元傭兵など、様々な敵を倒し、決勝戦ではグラシエーロ最強の男レオンと対戦する。レオンは試合で人を殺めてしまった過去から柔術とは距離を取り、スラムで子供達に柔術を教えながら、彼らを支援する心優しい男なのだが、九十九との試合中、彼の中に潜む悪魔が目覚め、九十九と命を賭けた戦いを演じる。
九十九は決死の思いで陸奥圓明流奥義四門・玄武を繰り出し、レオンを殺害する。
試合後、ビクトルはコンデコマを継ぐ者はグラシエーロではなく、ケンシン・マエダという男だと九十九に告げ、九十九はケンシン・マエダの元に向かうのだった。
感想
第四部のグラシエーロ柔術は明らかにグレイシー柔術のオマージュであり、連載中に格闘技界に旋風を巻き起こしていたグレイシーの影響であることは明らかである。
レオンの死という衝撃的な結末であったが、玄武を受けてなお立ち上がり戦うレオンは涙なしでは読めない。
また、修羅の門のスピンオフ作品、修羅の刻を読んでいると、真玄の言葉の真意などが分かってなかなか面白い。
全体を通しての感想&考察
・九十九、常に満身創痍過ぎる。
九十九は基本的に相手の全力を出させたり、相手の土俵で戦うので、常に満身創痍である。だから、毎回その部のラスボスと戦うときは全身ボロボロなのである。
子供の頃はそれが嫌で仕方なかった。頼むから体調万全で挑んでくれよ!!!と思って読んでいたのだが、大人になってから読み返すと、あくまでも横綱相撲をするところに不敗の陸奥圓明流の矜持を感じて、それはそれで熱いなと思いながら読んだ。
また、メタ的な視点で言うと、弱体化してないと九十九が強すぎるからというのもあるのだろうと邪推する。
・当時の格闘技事情が見える。
第二部は明らかにUWFの影響が見えるし、第四部は恐らくUFCやバーリトゥードJAPANの影響なのかな?という描写が見て取れる。
当時からかなり時間が経った今読むと、当時どれだけ彼らが旋風を巻き起こしたのか知れて、リアルタイムを知らない勢からすると面白い
・舞子ちゃんすぐにデレ過ぎ
ヒロインの舞子ちゃんが速攻で九十九にデレるので少し笑ってしまったが、子どもの頃から強い男達に囲まれて育った彼女ならば、九十九の強さに惹かれるのも無理はないだろう。恐らく、九十九とくっつくんだろうけれど、九十九と舞子ちゃんの子供とか歴代最強クラスの陸奥圓明流の使い手が生まれるのは必至だろう。
・今読んでもめちゃくちゃ面白い
今読んでも必殺技はめちゃくちゃカッコいいし、男達のプライドを賭けた死闘は熱い。
それだけでなく、格闘技は人を死に至らしめる負の側面があることをしっかり描きつつも、それでも格闘技に魅せられる男達のバカッぷりに涙。
まとめ
修羅の門はいつ読んでも名作です。